Platform EngineeringとDevOps(SRE)の違い
プラットフォームエンジニアリングは、DevOpsやSRE（Site Reliability Engineering）と目的こそ重なる部分があるものの、役割の焦点やアプローチが異なります。
むしろ「DevOpsやSREをさらに発展させ、その実践上の課題を補完するもの」として登場した経緯があります。
ここではDevOpsとSREそれぞれについて、プラットフォームエンジニアリングとの違いを見てみましょう。
DevOps とプラットフォームエンジニアリングの違い
役割の焦点（目的）の違い
DevOpsは開発(Development)と運用(Operations)の壁をなくし協調させる文化・プラクティスで、「できるだけ迅速かつ高品質にソフトウェアをリリースする」ことに重点があります。
一方でプラットフォームエンジニアリングは、開発チームのための内部プラットフォーム（ツールチェーンやワークフロー）の構築と提供に専念する点で異なります。
要するに、DevOpsがプロダクトの機能リリース自体を最速化する取り組みなのに対し、プラットフォームエンジニアリングはその土台となる共通基盤を整えることで間接的に開発とデリバリーを加速する役割を担います。
アプローチ・手法の違い
DevOpsではCI/CDパイプラインの構築、自動テストや監視の導入、ChatOps的なコミュニケーション（SlackやJIRAなど）といった開発～運用プロセス全般の自動化・効率化が重視されます。
一方プラットフォームエンジニアリングでは、KubernetesやTerraform、Ansibleといったインフラリソースのプロビジョニングや環境構築を自動化・提供するツールに焦点が当てられます。
つまりDevOpsはソフトウェア開発ライフサイクル全体のパイプラインを最適化するのに対し、プラットフォームエンジニアリングはそのパイプライン自体を誰もが使えるサービスとして整備するイメージです。
組織への浸透方法の違い
DevOpsは文化的ムーブメントであり、「DevOps担当チーム」を設けるべきではないと言われます。
しかし現実にはDevOpsエンジニアやDevOpsチームといった役割が生まれ、場合によっては従来型の運用チームが名前だけDevOpsになってしまうケースもありました。
プラットフォームエンジニアリングはその反省も踏まえ、プラットフォーム専任チームを明確に編成して開発チーム（アプリケーションチーム）との責務分担を定義します。
アプリケーションチームは「自分たちのアプリの開発と運用」に集中し、プラットフォームチームは「プラットフォーム基盤の開発と運用」に責任を持つ形です。
このように領域を切り分けることで、DevOpsの核心である
「You build it, you run it（自分で作ったものは自分で運用する）」の原則を各チームがそれぞれのプロダクトで実践できるようにしています。
Platform EngineeringとSREの違い
SRE とプラットフォームエンジニアリングの違い
目的・責務の違い
SRE（サイトリライアビリティエンジニアリング）は主に本番環境の信頼性や可用性の確保が使命です。SREチームはサービスの信頼性向上のために、エラーバジェットやSLO（サービスレベル目標）の管理、障害対応、監視強化といった活動を行います。
一方でプラットフォームエンジニアリングは、開発者が使うプラットフォームを構築し提供することが使命であり、本番システムそのものの信頼性管理ではなく開発プロセス全体の効率化にフォーカスします。
言い換えると、SREはプロダクトの「運用面の品質保証者」、プラットフォームエンジニアリングは「開発者向けのサービス提供者」という役割の違いがあります。
扱う技術領域の違い
SREは主にモニタリング/アラーティングやインシデント対応のツールを駆使します。
例としては、PrometheusやGrafanaによるメトリクス監視、PagerDutyによるアラート通知など、システムの健全性を測定・維持するためのツール群が中心です。
これに対しプラットフォームエンジニアリングが管理するのは、開発環境やインフラ自動化のためのツールです。
具体的には、コンテナオーケストレーション（Kubernetesなど）やInfrastructure as Codeツール（Terraformなど）、内部向けの開発者ポータル（Spotify社のBackstageなど）がプラットフォームチームの管轄ツールになります。
評価指標の違い
SREはシステムの信頼性指標（例: レイテンシ、トラフィック、エラー率、アップタイムなど）を追跡し、それらが定めた目標値（SLO）を満たすよう努めます。
一方プラットフォームエンジニアリングは、開発プロセスの生産性や安定性の指標を重視する傾向があります。
具体的には、変更リードタイムやデプロイ頻度などのデリバリーの速さ、MTTR（平均復旧時間）や変更失敗率といったプラットフォーム経由での運用安定性、さらにはインフラ資源の利用効率といった指標でプラットフォームの価値を測定します。
このように評価軸が異なる点も、SREとプラットフォームエンジニアリングの大きな違いです。
DevOps・SREではなぜ不十分なのか？
上述のように、それぞれ目的や役割が異なるため、DevOpsやSREだけではカバーしきれない領域をプラットフォームエンジニアリングが埋める形となります。
特に大規模化・高度化する現代のクラウドネイティブ環境では、「開発チームが製品開発に専念できる土台」を用意するプラットフォームチームの存在が不可欠になりつつあります。
DevOpsは文化的改革としてソフトウェア開発に革命をもたらしましたが、組織によっては導入時に「DevOpsチーム」を作ってしまい従来型運用チームとの境界が曖昧になるなどの問題も発生しました。その結果、開発者に過度の負担がかかったり、責任の所在が不明確になるケースがあったのです。
プラットフォームエンジニアリングはこの問題に対し、前述のように責務を明確に分離した専任チームによって開発者体験(Developer Experience)を向上させる**ことでDevOpsの効果を最大化しようとする試みと言えます。
またSREは信頼性に特化した仕組みを提供しますが、開発者の日常的な開発フローを簡素化すること自体が目的ではありません。
クラウド環境のセットアップやCI/CDパイプラインの整備など、開発のしやすさに直結する分野はSREの範疇外になりがちです。
プラットフォームエンジニアリングはまさにその部分を担い、セルフサービスでインフラや環境を使える仕組みを提供することで、開発チームの生産性と独立性を高めます。
